家族信託は、銀行、司法書士、弁護士、どこに依頼するべき?

銀行、司法書士等、事業者ごとの特徴

大手銀行、信託銀行は家族信託の対応をしていない

まず、大手銀行、信託銀行(以下、大手銀行等)は、家族信託自体をサービスとして提供していないため、相談しても家族信託は出来ません。大手銀行等の場合、信託銀行が、信託の受託者を事業として行う免許を持っており、信託の仕組みを事業として行っています。
何らの免許を持たずとも信託の仕組みを利用できてしまい、そこに自社が介在することのない家族信託は、自社の事業と競合してしまうことが理由の一つとして推測できます。
そのため、どこに相談するべきかという本記事のテーマにおいては、大手銀行等は入らないこととなります。
一方で、高度なコンサルティング能力を大手銀行、信託銀行は有しており、かつ、グループ企業を含めた、金融商品の販売(代理含む)や不動産仲介にも対応している、いわば財産関連サービスにおけるデパートです。
報酬額が高額な上、大企業にありがちな担当の良し悪しと頻繁な担当変更の問題はあるものの、資産家の方であれば、大手銀行、信託銀行への相談は選択肢として持たれて良いかと思います。家族信託に対応していなくても、信託銀行等を受託者とする従来の信託はございますので。

弁護士への家族信託相談

法律資格の最高峰であり、紛争事案に制限なく介入可能な唯一無二の存在である弁護士ですが、家族信託に精通する弁護士は稀です。
とはいえ、基本能力が高いので、経験がない先生でも、依頼すれば無難な成果は得られるかと思います。また、弁護士は、資格の性質上、職務規定がとても厳しく、一つ一つの仕事に首が懸かってくることが、相談先として選択するに足る安心材料として挙げられます。
ただ、問題が二点ございます。
一つは、登記手続きが司法書士への外注になることです。そのため、弁護士に家族信託を依頼した場合には、別途司法書士への依頼も必要となり、報酬の支払いも2つとなります。
もう一つが、法務視点に偏り、財産活用や相続税対策、ライフプランといった視点に欠け、総合的なコンサルティング能力を欠くことが多いことです。弁護士は法務の最高峰であり、こうした能力を備えている必要性はないのですが、家族信託については、法務だけでは、高度なサービス提供は困難となります。

司法書士の家族信託相談

司法書士は、士業の中で最も家族信託に取り組んでいる割合が多い業種です。特徴となるのが、登記手続きを行える点で、これにより、家族信託サービスについては、他の業種と異なり単独で行うことが可能です。
家族信託を利用するに当たり、複数の業種に依頼しなければならないという手間が省け、また、一般論としては、報酬の支払先が単一にまとまることで、支払総額も比較的安くなります。
司法書士においても、弁護士と同様に、資格の性質上、厳しい職務規定があることから、相談先として選択するに足る安心があります。
一方で、問題点が二つございます。
一つは、弁護士ほどの基本能力がなく、多くの司法書士は、登記業務に偏っていて、契約書作成業務に不慣れなところがあり、家族信託に精通していない司法書士が信託契約書を作成すると、その出来はかなり酷いものになることです。(実際に幾つかの事例を拝見しております。)
もう一つは、弁護士のケースと同様で、コンサルティング能力を有していない司法書士がほとんどであることです。弁護士のケースと内容は同じですので、こちらでは割愛致します。

その他民間企業への家族信託相談

一部の地銀や信用金庫、その他、不動産会社を背景とした企業や、保険会社等を背景とした企業がありますが、これといったメリットが見たらないというのが筆者の感想です。
いずれの企業においても、自社でサービスを提供していると言っても、契約書作成や登記業務を行うことが出来ないため、弁護士か司法書士又はその両方へ外注することにより処理がされることとなります。そのため、結局、依頼先と支払先は多くなってしまい、WEBサイトや広告には安い金額の記載がされていても、弁護士や司法書士報酬を合算すると、特に安いわけではなかったりします。
また、危惧される問題として、地銀と信用金庫は除きますが、家族信託サービス提供に当たっての監督官庁はなく、規制が全くないことがあります。家族信託は、財産の管理と承継を規定するとても重いサービスで、悪用も容易に出来てしまうことから、サービス提供者には高度な能力と倫理が必要と考えますが、こうした担保が一切ないのです。
不安材料ばかりを記載してしまいましたが、全ての企業が、相談先としてメリットのない、いわば単なる仲介屋というわけではありません。
筆者が知る範囲においても、代表一人の小さな企業ですが、信託会社でのキャリアを経て独立し、家族信託や財産承継のコンサルティングを提供している企業があります。この企業の持つ、コンサルティング能力は非常に高く、家族信託の前提として、総合的なコンサルティングを受けたい場合には、利用する価値が十分にあります。

章まとめ

家族信託サービス提供する事業者の業種別特徴等をご案内させて頂きました。
筆者が司法書士であることから、お手盛りに思われてしまう感は否めませんが、客観的に見て、相談先の業種を選ぶとすれば、司法書士がベストかと思います。家族信託の構築作業を単独で行える唯一の業種であり、資格の性質上、下手なことはできない安心があるためです。