相続税の早見表の見方と注意点
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早見表では小規模宅地等各種税制特例による相続税の誤差
相続税の早見表は相続に関する各種税制特例や控除を考慮していないため、実際に納める相続税との間に誤差が生じることがあります。相続に関する主な税制特例または控除として、以下のものが挙げられます。
・小規模宅地等の特例
・農地等の納税猶予の特例
・配偶者控除
・障害者控除
・相次相続控除
これらの制度を適用すると税金の大幅な減額が生じ、早見表が示す相続税額との間に大きな誤差が生まれやすいのです。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、故人が使用していた宅地の用途や広さに応じて相続税を減額する制度です。
この特例が適用される宅地は以下のように区分されています。
・居住用
・事業用(貸付事業用・特定事業用)
各利用区分には「要件」「限度面積」「減額割合」が設定されていて、これらをもとに計算します。
・出典:『No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)』(国税庁)
具体的に小規模宅地等の特例はどのように計算されるのでしょうか。設例をもとに説明しましょう。
①設例1
・対象となる宅地:被相続人の居住用宅地
・宅地の面積:300㎡
・宅地の評価額:6,000万円
対象となる宅地は「特定居住用宅地等」に該当します。限度面積以下のため、宅地面積の全てが減額割合の対象となります。
控除額:6,000万円×(300㎡/300㎡×80%)=4,800万円
相続税評価額:6,000万円-4,800万円=1,200万円
②設例2
・対象となる宅地:被相続人の同族会社用宅地
・宅地の面積:500㎡
・宅地の評価額:9,000万円
対象となる宅地は、「特定同族会社事業用宅地等」に該当します。限度面積を超えているため、以下のように控除額と相続税評価額を求めます。
控除額:9,000万円×(400㎡/500㎡×80%)=5,760万円
相続税評価額:9,000万円-5,760万円=3,240万円
農地等の納税猶予の特例
農地等の納税猶予の特例とは、農地などの広大な土地を相続した際に、相続税または贈与税を猶予する制度のことです。この特例を利用できるのは、原則として生涯農業を目的に利用し続ける場合のみです。農地以外に使った場合は納税猶予の適用が終わり、税金を一括で納める必要が出てきます。
納税猶予税の算出には、特定の計算式が用いられます。
「普通に計算した場合の相続税額」-「農業投資価格による相続税額」
設例をもとに、特例による納税猶予額を計算してみましょう。
◯設例
・相続人:1人
・相続する財産:農地
・農地のある場所:千葉県
・農地面積:1200a
・地目:田
・土地の評価額(通常):2億円
・千葉県の農業投資価格:74万円/10a※
※参照:『農業投資価格の金額表』(国税庁)
普通に計算した場合の相続税額は、以下のように求められます。
①課税総遺産総額の計算:2億円-3,600万円(基礎控除額)=1億6,400万円
②相続税額の計算:1億6,400万円×40%-1,700万円(控除額)=4,860万円
※参照:『相続税の税率』(国税庁)
農業投資価格による相続税額は、以下のように求められます。
①相続する農地の評価額:74万円×1200a/10a=8,880万円
②課税遺産総額の計算:8,880万円-3,600万円(基礎控除額)=5,280万円
②相続税額の計算:5,280万円×30%-700万円(控除額)=884万円
最後に、納税猶予税の算式を用いて税額を算出します。
4,860万円-884万円=3,976万円
配偶者控除
配偶者が相続する遺産に対して相続税を免除する制度のことを、配偶者控除といいます。この制度により、以下のいずれか大きい方に該当する場合は配偶者の相続税がゼロになります。
・1億6,000万円
・配偶者の法定相続分
相続税の早見表に表示されている相続税額は、配偶者控除後の数字です。もし、配偶者控除を適用しないのであれば、実際の税額との間に誤差が出ます。例えば、課税価格の合計額が1億円の財産を配偶者と2人の子で分割する場合の相続税合計額を早見表で調べると、315万円。これは、配偶者控除を適用した後の数字ですので、控除を利用しなかった場合の相続税額とは異なります。
また、早見表は配偶者の法定相続分(課税価格の1/2)を前提としているため、それ以外の割合で分割した場合は、相続税額も必然的に変わります。
例えば、父が8,000万円の財産を遺して亡くなり、配偶者と子の2人が遺産を引き継ぐとしましょう。法定相続人全員が、無職の母に父の財産を全て譲ることに合意した場合、8,000万円が配偶者のものとなります。配偶者控除を使えば、相続税はゼロです。極端な例かもしれませんが、こうした個々のケースに早見表は対応していません。
障害者控除
障害者控除とは、障害を持つ法定相続人に対する控除制度のことです。
控除を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
・相続した時の年齢が85歳未満の相続人
・「一般障害者」または「特別障害者」に該当する相続人
障害者控除額は、以下の計算式で求められます。
85歳-相続時の年齢×10万円(特別障害者の場合は20万円)
例えば、一般障害者の法定相続人が45歳の時に遺産を相続する場合の控除額は、400万円です。
85歳-45歳×10万円=400万円
この法定相続人が支払う相続税額が400万円であった場合、控除額を差し引くと相続税は0円となります。早見表による相続税は、法定相続人が障害者であるかどうかを考慮していませんので、当然ながら実際の相続税との間に誤差が生じます。
相次相続控除
相次相続控除とは、10年間に相続が複数発生した際に適用される控除制度のことです。例えば、父が亡くなってから3年後に母が亡くなった場合、父の相続(1次相続)で支払った相続税の一部を、母の相続(2次相続)の時に控除できます。
相次相続控除の計算式は以下のとおり。
A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10
A:1次相続の相続税額
B:1次相続の純資産価格
C:2次相続の純資産総額
D:2次相続の純資産価格
E:1次相続から2次相続までの期間
設例をもとに相次相続控除額を計算してみましょう。
◯設例
【1次相続】
・被相続人:祖母
・相続人:父
・父が取得した財産の資産価格:5,000万円
・父の相続税額:160万円
【2次相続】
・被相続人:父
・相続人:子(A男)
・A男が取得した財産の資産価格:4,000万円
・1次相続から2次相続までの期間:5年
A:160万円
B:5,000万円
C:4,000万円
D:4,000万円
E:5年
A×C÷(B-A)×D÷C×(10-E)÷10
160万円×4,000万円÷(5,000万円-160万円)×4,000万円÷4,000万円×(10-5)÷10=661,157円(小数点以下切り捨て)
相次相続控除額の計算は、1次相続で支払った納税額や1次相続から2次相続の期間など、個人的に異なる要素を用いるため、早見表の数字とは差が出ます。