相続税計算のシミュレーション活用と注意点
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相続税計算シミュレーションの注意点
相続計算シミュレーションは、必要な情報を入力するだけで瞬時に相続税を計算してくれます。ただし、ケースによってはシミュレーションで得られた数字と、実際に支払う相続税額との間に大きな差が出ることがあります。その理由の一つとして、加味できない要素が多く、個々のケースに対応しきれないということが挙げられます。相続税計算シミュレーションを使う際の注意点について、説明します。
財産評価が出来るわけではない
相続税を計算する際に必要なのは、引き継ぐ財産に対する評価です。財産評価は、評価対象となる財産の種類によってやり方が異なるため、相続税計算シミュレーションには不向きと言えるでしょう。特に土地や自社株評価、名義預金などのみなし相続財産の判断は複雑です。
①土地の評価
土地を評価する方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があり、それぞれ計算式が異なります。
・路線価方式:路線価×土地の面積
・倍率方式:固定資産税評価額×評価倍率
「路線価」とは、国税庁が定めている道路に面している宅地1㎡あたりの価額のことです。「評価倍率」は、路線価のない地域の土地を対象に、国税庁が設定している特定の倍率のことを指しています。
計算に必要な情報は一般の人でも収集できますが、できるだけ正確に土地を評価するには、単に計算式に当てはめるだけではなく、その土地の形状や立地を考慮する必要があります。例えば路線価方式を用いて土地を計算する際、奥行きが極端に長い土地の評価は、上記の式に奥行価格補正率(奥行きが長く、それによって利便性が下がると考えられる土地に適用される補正)をかけて計算します。
◯設例:
・路線価:20万円
・奥行き:30メートル
・土地の面積:1,000㎡
上記の土地を評価する場合の計算式は以下のとおりです。
20万円×1,000㎡×0.95(奥行価格補正率)※=1億9,000万円
※国税庁の奥行価格補正率を参照。
この奥行価格補正率は、地区区分でいう「普通住宅地区」に所在する土地に適用されるものです。他の地区区分にある場合は、異なる奥行価格補正率が設定されています。例えば、「繁華街地区」にある土地の場合の奥行価格補正率は0.98と設定されていますので、同じ形状の土地でも評価額は異なります。
20万円×1,000㎡×0.98=1億9,600万円
相続税計算シミュレーションでは、土地評価を加味して計算できません。土地評価は高額になる傾向があるため、シミュレーションの数字との格差が大きくなりがちです。
②自社株評価
自社株評価とは簡単に言うと、自社で保有している非上場株式の価額を計算することです。自社株を相続すると、相続税がかかりますが、自社株評価は判断方法が複雑なうえ高額になりがちです。相続税計算シミュレーションでは税額を把握するのに限界があるでしょう。
自社株評価の方法には、「原価的評価方式」と「特例的評価方式」の2種類があり、原価的評価方式はさらに「類似業種比準価額方式」「純資産価額方式」の2種類に分けられます。「類似業種比準価額方式」と「純資産価額方式」を併用して評価することもありますが、それを含めると4種類の評価方式の中から適切な方法を選択しなくてはなりません。
適切な評価方法を選択するには、自社の状況を適切に判断するプロセスを踏みます。株主を判定することから始めて従業員と総資産価格をベースに会社の規模を評価し、さらに特定の資産バランスや業態から特定会社に該当するかどうかを判定します。これらのプロセスをへて評価方法を選ぶことになりますが、細かな要素を検討する必要があるため、相続税シミュレーションを使って評価額を算出することは難しいと言わざるを得ません。
③みなし相続財産の評価
みなし相続財産とは、亡くなったことによって生じる財産のことを指します。具体例としては、
・死亡保険金:被相続人が死亡したことによって受け取ることのできる保険金
・死亡退職金:被相続人が死亡したことによって勤め先から支払われる退職金
の2種類が挙げられます。
みなし相続財産には非課税枠があり、それを上回った分に対して相続税がかかります。計算シミュレーションでは非課税枠は設定されていませんので、正確に評価するには手動で行う必要があるでしょう。
各種税制特例は加味されない
相続税計算シミュレーションは、各種税制特例を加味せずに相続税を計算します。相続に関する各種税制特例にはいくつか種類があり、特別な計算式を用いて控除額等を算出します。主な税制特例は以下のとおりです。
税制特例の種類
概要
計算式
小規模宅地の特例
故人が使用していた宅地に対して行われる控除
宅地の評価額×限度面積×減額割合
障害者控除
「一般障害者」または「特別障害者」に認定されている相続人に対する控除
・一般障害者:85歳-相続時の年齢×10万円
・特別障害者:85歳-相続時の年齢×20万円
未成年者の税額控除
未成年の相続人に対して、相続してから18歳に達するまでを想定し一定額を控除する制度
18歳-相続時の年齢×10万円
贈与税額控除
相続税との二重課税を避けるために、相続税から贈与税を控除できる制度
贈与を受けた年の贈与税額×相続税に加算した贈与財産の価額/贈与を受けた年の贈与財産の総額
相次相続控除
10年間に複数の相続が発生した場合、2次相続の時に一定額が差し引かれる制度
国税庁の『相次相続控除』を参照
各種税制特例は、ケースによっては相続税の大きな減額につながります。
利用を検討しているのなら、相続税計算シミュレーションではなく個々の事情に合わせて計算するのが無難でしょう。