家族信託の始め方と手続きの流れを徹底解説:準備から契約まで
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高齢の親の認知症対策や円滑な資産承継の手段として、近年「家族信託(民事信託)」への関心が高まっています。例えば、不動産の信託登記件数は2023年に2万件以上と前年から大幅増加し、過去5年間で約2倍に伸びました。とはいえ、「具体的に何を準備し、どう手続きを進めれば良いのか分からない」という声も多いでしょう。本記事では、高齢の親を持つ50代の方に向けて、家族信託を始めるための準備から契約締結までの流れを専門家目線でやさしく解説します。必要な書類や費用の目安にも触れながら、疑問や不安を解消しつつスムーズに家族信託を進めるポイントをご紹介します。
家族信託とはどんな仕組み?
家族信託とは、親(委託者)が自分の財産の管理・処分権限を信頼できる家族(受託者)に託し、親自身や指定した家族(受益者)のために財産を運用管理してもらう仕組みです。たとえば親が自宅や預貯金を子に信託しておけば、将来親が認知症で判断能力を失っても、子がその財産を代理で管理・処分できます。親の資産が銀行口座凍結や不動産売却不能になるリスクを防ぎ、必要な介護費用等に充てられる柔軟性が生まれるのが大きなメリットです。また信託契約次第では、親亡き後の財産承継方法をあらかじめ指定しておくことも可能で、遺言の代用として機能させることもできます。以下では、家族信託を始める前に何を準備し、どのような手順で契約まで進めるか、そして必要な費用・書類についてステップごとに詳しく見ていきましょう。
家族信託を始める前に準備すべきこと
家族信託をスムーズに始めるには、契約手続きを行う前の入念な準備が欠かせません。ここでは、信託開始前に準備すべき主なポイントを解説します。
資産・財産の洗い出しと信託計画の明確化
まずは親が保有する資産を整理し、どの財産を信託するか洗い出しましょう。預貯金、不動産、証券など信託に組み入れる財産のリスト(財産目録)を作成します。同時に、家族信託を行う目的と大まかな計画を家族で明確にしておくことが重要です。例えば「認知症による資産凍結を防ぐため」「将来の遺産分割を円満にするため」「障がいのある子の生活を安定支援するため」といったように、信託を活用する目的を家族全員で話し合い共有しておきます。最初に目的をはっきり定めておけば、後々の手続きで家族間でもめることを防げます。加えて、信託期間や受益者(信託で利益を受ける人)、さらには第二受益者(親が亡くなった後に利益を受ける人)など、信託の基本的な設計プランもこの段階で考えておきましょう。
なお、基本的に金銭的価値のある財産であれば信託可能ですが、公的年金受給権など法律上信託できないものもあります。また銀行の預金口座は名義変更が勝手にできない契約になっており、信託財産に含めるには工夫が必要です。こうした「何を信託できるか」については専門家に相談しつつ、信託財産の範囲を計画的に決めることが大切です。
家族間での話し合いと受託者(託す相手)の選定
家族信託は家族の協力なしには成立しません。親(委託者)と財産を託される子ども等(受託者)だけで決めてしまわず、家族全員で十分に話し合う時間を持ちましょう。他の兄弟姉妹など契約当事者以外の家族にも意向を伝え、不明点を共有しておくことで、後から「聞いていない」といった不満やトラブルを防げます。特に親の財産承継に関わる重要な内容ですから、信託の目的や内容について家族内で透明性をもって合意形成することが、円満な信託運用のポイントです。
次に、受託者となる人の選定です。受託者には信託財産の管理・処分という大きな権限と責任が委ねられるため、何より信頼できる人物であることが第一条件となります。一般的には子世代の中から、親と特に信頼関係が厚く財産管理に適任な人が選ばれます。受託者は親の資産管理を長期にわたり担う役割ですので、金銭管理能力や健康状態、さらには本人の生活状況なども考慮して決める必要があります。「信頼できるから」と高齢の配偶者を受託者にするケースもありますが、その受託者自身が高齢ゆえに途中で判断能力を喪失するリスクも考えられます。必要に応じて後継の受託者(受託者が務められなくなった場合に代わりを務める人)をあらかじめ契約で指定しておくことも検討しましょう。
専門家(司法書士・弁護士)への相談
家族信託は法律や税務にまたがる複雑な制度です。契約内容に不備があると後からトラブルになりかねません。司法書士や弁護士など専門家への相談を早い段階で検討しましょう。信託実務に詳しい専門家であれば、家族の状況に合わせた契約条項のアドバイスや必要書類の準備支援、金融機関との調整などもサポートしてくれます。例えば世田谷区家族信託・相続の相談所のような専門窓口も活用しながら、プロの目線で計画に漏れがないかチェックしてもらうと安心です。専門家に依頼する場合は費用はかかりますが、「自己流で進めて重大なミスをするリスク」を避けることができ、結果的に安全で近道となるでしょう。
家族信託契約の手続きと流れ
十分な準備が整ったら、いよいよ家族信託契約の正式な手続きへ進みます。ここでは信託契約の締結から実際に信託をスタートさせるまでの具体的な流れを解説します。大きく分けて、(1)信託契約書の作成、(2)信託契約の公正証書化と信託専用口座の開設・財産の名義変更、(3)信託開始後の管理・報告というステップになります。
信託契約書の作成(条項の決定と公正証書化)
まず、家族信託の内容を具体化した信託契約書を作成します。前述の家族間の話し合いで決めた内容(信託の目的・信託財産の範囲・受託者/受益者・信託期間や終了条件・親が亡くなった後の財産の帰属先 など)に基づいて条項を盛り込みます。契約書の文言はできるだけ具体的にし、曖昧な表現は避けましょう。解釈の余地が残ると後から紛争に発展し、せっかくの信託による円滑な財産管理が妨げられる恐れがあります。実務では専門家の協力を得て、「○○の場合はどうするか」「税金面で不利にならないか」等の細部まで検討し、漏れのない契約書に仕上げることが大切です。
信託契約書は当事者間の合意だけでも法律上は有効(私文書でも成立)ですが、可能な限り公正証書で作成することをおすすめします。公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公的な契約書面であり、高い証明力があります。特に多くの金融機関が、信託専用の「信託口口座」を開設する条件として契約書の公正証書化を求めています。また公正証書で作成しておけば原本が公証役場に保管され紛失の心配もありませんし、偽造や改ざんも防止できます。公正証書を作るには事前に公証人との打ち合わせや必要書類の収集が必要です。専門家と相談しながら、公証役場で契約書を作成するくらいの心積もりで準備しましょう。
信託専用口座の開設・信託財産の名義変更(登記など)
信託契約書が完成(公証役場での公正証書化が済んだら)したら、実際に財産を受託者へ移し、信託を稼働させる手続きを行います。主に(1)金融財産の信託専用口座の開設と、(2)不動産の名義変更(信託登記)の二つです。
まず、預貯金や有価証券など金銭を信託する場合、受託者名義の「信託口口座」(しんたくぐちこうざ)と呼ばれる専用口座を銀行等で開設します。これは受託者個人の口座とは別に信託財産を分別管理するための特別な口座です。口座開設時には信託契約書(公正証書)の提出が求められ、多くの銀行では事前審査もあります。信託金額や契約内容の確認審査を経て承認されないと口座開設できないケースもあり、専門家を通さない個人からの申し込みを断る銀行も少なくありません。そのため、信託口口座を作る予定がある場合は契約前に金融機関への確認や準備を十分行っておくと良いでしょう。実務上は、親(委託者)と子(受託者)が契約後に一緒に銀行へ出向き、委託者の預金を一旦現金化してから受託者名義の信託専用口座に預け入れるといった手続きが必要になります。甲野家でも、お父様の預金を信託する際に専用口座を開設し、資金を移して管理する方法を取りました。このように手間はかかりますが、信託財産として預金を適切に管理するには必要なプロセスです。
次に、不動産を信託する場合は法務局での信託登記(名義変更)が必要です。受託者への名義変更に伴い、「信託」という旨が登記簿に記載されます。不動産の登記申請書類の作成や法務局への申請手続きは司法書士に依頼することが多いですが、自分で行うことも不可能ではありません。信託登記の申請時には、契約書や登記識別情報(権利証)、委託者・受託者の印鑑証明書など様々な書類が必要になります。書類に不備があると受理されないため、こちらも専門家と相談しながら漏れなく準備しましょう。
こうした手続きを経て、不動産も含めた信託財産の受託者への名義移転が完了すれば、信託契約が実体的に履行されます。信託財産は受託者の管理下に置かれ、家族信託が正式にスタートすることになります。
信託開始後の管理・定期報告の方法
信託契約の手続きが完了し財産の名義が受託者に移ったら、家族信託が本格的にスタートします。ここから先は受託者による財産の管理・運用が日常的に行われることになりますが、信託開始後にも守るべきルールや報告義務があります。
まず、受託者は信託財産を管理・処分する大きな権限を持つ一方で、信託目的に従って適正に管理する義務を負います(信託法上、善管注意義務・忠実義務など)。そのため、例えば預金の出入金や不動産収入の管理状況など、信託財産に関する帳簿を作成し、委託者や受益者に定期的に報告することが望ましいとされています。実際、税務上も報告義務が課される場合があります。信託財産から一定額以上の収益が出た場合、受託者は税務署に「信託計算書」を提出しなければなりません(信託型の確定申告のようなものです)。また、不動産を賃貸していれば毎年の固定資産税の支払いも受託者が行い、その記録を残す必要があります。
さらに、信託契約で定めた内容に沿って管理しているかどうか、他の家族にも透明性を保つことが大切です。たとえば信託監督人や受益者代理人を置いた場合は、その者に対して定期的に帳簿を見せる、あるいは年に一度家族会議を開いて運用状況を共有するといった方法も検討すると良いでしょう。甲野家でも、長男の受託者が定期的に家族に運用報告することで、信託開始後も家族全員が状況を把握できるよう配慮しました。信託は始まってからも家族の協力と信頼が欠かせません。透明性の高い管理と定期報告を怠らず、誠実な姿勢で財産を運用していくことが信託成功の鍵と言えるでしょう。
家族信託にかかる費用と必要書類
家族信託を利用する際には、いくつかの費用と必要書類が発生します。事前にどのような費用項目があり、どんな書類を用意すべきか把握しておきましょう。
契約書作成費用・登録免許税など費用の目安
家族信託に関連して一般的に発生する主な費用は以下のとおりです。
- 信託契約書の公正証書作成費用:公証役場で信託契約書を公正証書にする際にかかる手数料です。契約内容や信託財産の評価額によって異なりますが、一般的に3~8万円程度が相場です。公証人手数料は信託財産額に応じて定められており、例えば信託財産が3,000万円の場合で手数料は約3万円ほどになります(2024年現在)。なお、公正証書にしない私文書契約の場合でも、契約書1通につき収入印紙代200円が必要です。
- 信託登記の登録免許税:不動産を信託する場合に法務局で信託登記(名義変更)を行う際に納める税金です。税額は不動産の固定資産評価額に対し、土地は0.3%(※2026年3月末まで(基本的に維持されています)の軽減税率)、建物は0.4%の税率で算出されます。例えば評価額2,000万円の土地なら6万円、1,000万円の建物なら4万円の登録免許税がかかる計算です。不動産の評価額は市町村が発行する固定資産税評価証明書等で確認できます。また、信託登記を司法書士に依頼する場合の報酬は、1件あたり約10万円が相場です。
- 専門家への依頼費用(コンサルティング費用等):家族信託の設計や契約書作成サポートを専門家に依頼した場合の費用です。一般に信託財産額の0.5~1.5%程度が目安で、最低報酬額を30~50万円程度に設定している事務所もあります。たとえば専門家にフルサポートを依頼した場合の総費用相場は50万~100万円程度と言われます。一方、信託財産が現金のみ等シンプルなケースでは比較的費用を抑えられ、30~60万円ほどで済む例もあります。費用は信託内容や財産規模によって大きく変動しますので、契約前に見積もりを出してもらい、十分に検討すると良いでしょう。
- その他の実費:上記以外にも、公正証書作成時の印紙代(私文書契約なら200円)や公証役場までの交通費、各種証明書の発行手数料(印鑑証明書・戸籍謄本・固定資産評価証明書など各数百円)といった細かな実費が発生します。ただしこれらは一つ一つは数百~数千円程度と小さいため、主な負担は契約書作成・公正証書化費用、登記関連費用、専門家報酬だと考えておけば良いでしょう。
費用を抑えるコツとして、「自分でできる手続きは自分で行う」という方法もあります。例えば契約書を専門家に頼らず自力で作成すれば報酬は不要ですし、公正証書にせず私文書契約にすれば公証人手数料も節約できます(※その場合でも印紙代200円は必要)。また、不動産登記も自分で申請すれば司法書士報酬(約10万円)はかかりません。しかし、家族信託は手続きが複雑で内容に不備があるとリスクも大きいため、費用優先で自己流に進めるのは注意が必要です。専門家にポイントだけ相談しつつ一部作業を自分で行うなど、バランスを取りながら進めると安心でしょう。
準備しておくべき書類(財産目録、登記関連書類 等)
家族信託の契約や各種手続きで必要となる書類も、事前に揃えておきましょう。主な書類は以下のとおりです。
- 財産目録(信託財産一覧):信託の対象とする資産を一覧にした書類です。預金口座の銀行名・口座番号・残高、不動産の所在地・地番・評価額、その他有価証券の内容など、信託に組み入れる財産の詳細をリストアップします。信託契約書の別紙として添付することも多いため、親御さんが持つ全財産を把握して漏れなくまとめておきましょう。
- 本人確認書類:委託者(親)・受託者(子)それぞれについて、運転免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きの公的身分証明書のコピーを用意します。公正証書を作成する際や銀行口座開設時などに提示・提出を求められます。
- 印鑑証明書(委託者・受託者):各当事者(親と子)の実印について、発行後3か月以内の印鑑登録証明書を取得します。公正証書作成時に公証人へ提出し、不動産の信託登記申請時にも法務局へ提出します。なお、受益者が委託者と別人の場合(例:親が委託者で子が受益者となる信託を組む場合)、その受益者の印鑑証明書も求められるケースがあります。
- 実印(委託者・受託者):契約の調印や登記申請のため、委託者・受託者それぞれ実印(印鑑証明書と同じ印)を用意します。公証役場での契約署名時や登記書類への押印に使用します。
- 不動産関連書類(不動産を信託する場合):対象不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)を法務局で取得します。併せて、その不動産の固定資産税評価証明書(市区町村発行)も用意しましょう。これらは契約書の事前打ち合わせや公証人との協議時に必要となるほか、登録免許税額の算定や登記申請の添付資料として使用します。さらに、不動産の権利証(登記識別情報通知)がある場合は紛失せず手元に用意しておきます。
- 戸籍謄本:親子関係など家族関係を証明するため、最新の戸籍謄本(または抄本)を取得します。公正証書作成時に求められる代表的書類の一つです。ケースによっては不要な場合もありますが、念のため準備しておくと安心でしょう。
- 住民票(受託者):不動産の信託登記では、受託者の住所を証明するために受託者の住民票(写し)が必要です。発行から3か月以内のものを取得し、登記申請書に添付します。
以上の書類の中には、役所での取得に時間がかかるものもあります。特に戸籍謄本や固定資産評価証明書などは早めに請求し、信託契約の手続きをスムーズに進められるよう事前準備しておきましょう。
まとめ(スムーズに家族信託を始めるためのポイント)
ここまで、家族信託の始め方と手続きの流れを準備段階から契約後まで順を追って解説しました。最後に、スムーズに家族信託を進めるために押さえておきたいポイントを整理します。
- 早めの準備と目的の共有:親御さんの判断能力がしっかりしているうちに、家族信託の検討を始めましょう。家族全員で信託の目的や必要性を話し合い、共通理解・合意形成することが第一歩です。目的を明確にして共有しておくことで、手続きの途中で迷いや対立が生じにくくなります。
- 信頼できる受託者の選定:家族信託の中核は受託者です。信頼性はもちろん、財産管理の能力や長期的責任を担える人物かどうかをよく考慮して選びましょう。必要に応じて後継受託者の指定も検討してください。
- 専門家の活用:家族信託は決して万能ではなく、法律・税務の知識や実務経験が求められる場面も多々あります。無理に自己流で進めるとトラブルになるケースもあります。司法書士や弁護士など専門家への相談・依頼を適切に活用することが、結果的に安心で確実な近道です。
- 契約内容の明確化:信託契約書は将来の道しるべです。条項は具体的かつ平易な表現で記載し、家族が読んでも誤解のない内容にしましょう。後日の争いを避けるためにも専門家のチェックを受け、漏れのない契約書を作成することが大切です。
- 計画的な手続き遂行:公正証書の作成予約、銀行口座の事前審査、登記書類の準備など、各手続きには時間がかかるものです。スケジュールに余裕を持って進め、必要書類は早め早めに収集しましょう。事前準備が万全なら、契約締結から信託開始までスムーズに運ぶはずです。
- 信託開始後の責任ある管理:信託が始まった後も、受託者は定期的な報告と帳簿管理を怠らず、透明性を保って運用することが重要です。家族の信頼に応える誠実な姿勢で信託財産を管理していきましょう。
家族信託は手間や費用もかかりますが、それ以上に「親の資産を守り、円満に承継する」ための効果的な手段です。専門家の力を借りながら必要な準備と手続きを踏めば、初めてでも安心して進められます。ぜひ本記事をガイドに、スムーズな家族信託のスタートを切ってください。
この記事は法令等に基づき専門家の監修のもと作成していますが、ご家庭の事情によって最適な手続きは異なります。具体的な家族信託の実行にあたっては、必ず司法書士・弁護士などの専門家にご相談ください。
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